マーケ戦略
製造業にデジタルマーケティングが敬遠される理由
公開日:2021年9月28日
製造業の販促担当者は、総じて営業活動との兼業が多く、販促プランをなかなか検討する事が出来ず、過去行った販促プランを採用する事が多い傾向にあります。
なぜならば、筆者は、大手製造業メーカーのマーケティング部門にて長年プロモーション戦略策定から設計・実行・分析までを担当しており、多くのデジタルマーケティング施策を展開し売上獲得や顧客定着化のプロジェクトを回しておりました。また、多くのメーカー販促担当者と交流し、現場意見も交換しておりました。
目次
製造業におけるマーケティングの取組状況
昨今、様々な業界で営業やマーケティングの手法が従来型からデジタル手法へと展望を遂げております。その中でBtoBとりわけ、製造業界では、IT導入が非常に遅いのが実情です。
ようやく、新型コロナウィルスの影響により営業訪問できないため、過去の名刺を整理しメールを配信したら、通常営業とさほど変わらない案件創出が出来て驚いた!などの声を製造メーカー営業担当者より聞き、私が逆に驚きました。
では、なぜここまで製造業界で導入が遅れているのでしょうか。
私は、大きく3点あると思います。
- 1つ目は、製造業の業界構造
- 2つ目は、独特な購買構造
- 3つ目は、製品検索数の少なさ
製造業の業界構造
日本のGDPの20%を支える業界であり、高度経済成長を支えた重要な業界であることは皆さんも認識されていると思います。当時は、旺盛な消費を支えるため、安くていいものを大量生産し、市場に投下しても十分に物が売れておりました。それを支えたのが、安定的な発注先と販売代理店制度であると思います。
安定的な発注先を確保するために納期と品質を重視することで、半永久的に取引先に困りませんでした。代表的な業種としては、自動車業界や航空業界ではないでしょうか。完成品メーカー→部品メーカー→素材メーカー。さらに部品メーカーは一次サプライヤー(ティア1:デンソーやアイシン)・二次サプライヤー(ティア2)・・・とランク付けられております。
しかし、現在は市場にモノが溢れ、消費も昔ほど元気ではない状況であり、現在では安定的な発注先を確保することが難しくなってきます。実際にトヨタ自動車の20年3月期決算は、新型コロナウィルスによる影響を受けておりますが、前期比△2,956億円の29兆9299億円でした。それでも売上額は大きいですね・・・
参照トヨタ自動車決算短信:2020年3月期 決算要旨
こうなるとこれまで積極的に行っていない「新規開拓の必要性」が出てくるため、マーケティング(販売促進プラン)の必要性が増してくると思います。
さらに組織体制にもマーケティングが普及しない要因があると思います。
社内にマーケティング知識を保有している人材はほぼいない!?
多くの製造業の企業では、マーケティング部門は存在せず、その役割を担っているのが営業部門であることは非常に多く散見されます。もちろんマーケティング部門がある企業も存在しますが、大半が大企業ではないでしょうか。そのため、日々顧客を追いながら数字を上げる事を目標に活動しており、なかなかマーケティング戦略や販促プランを考えることに時間を割くことが出来ず、また、その知識を保有していない方々が多い傾向にあると思います。これは私の実体験ですが、マーケティング部門が存在する企業でも営業部門とのパワーバランスが崩れ、下請けのような扱いを受けている企業も存在しています。
その中で、コンサル企業やマーケティング支援会社から提案を受けたとしても提案内容を理解することに苦労したり、言っていることはわかるけど、社内をどう推進したらいいのやら・・・日々の業務で忙しくなかなか別の業務はできない・・・など多くの声を現場担当者から聞きました。
理解するのに非常に難しい独特な購買構造
よくBtoC業界では、購入決定者と利用者が総じて同じですが、製造業ではこの部分がだいぶ異なります。
大きく分けてプレイヤーは3者!「商品選定者」「購買担当者」「購買決定権者」。流れとしては、
実際に製品を使う人が製品選定し、部品表(BOM)にまとめ、購入決裁の承認をもらい、購買担当者が実際に商品を購入する。これはあくまでも一例です。ここに企業規模が関わってきます。
例えば、家族経営している企業であれば、選定者兼決裁者、購買者が事務のおばちゃん。
大手では、設計部門であれば商品選定後、決裁をもらい、購買部門へ申請依頼。さらに企業によっては、発注先が指定されるケースも多々あります。
そのため、社内稟議の関係でBtoCのようになんとなく購入するや連れ買いが起こり得ない構造なのです。このため、構造をしっかりと理解しないといくらBtoC向けに受け入れられている企画だとしても製造業界では、的外れな提案内容になってしまうのです。この購買プロセスの理解こそが非常に重要なのです。
そのため、複雑な購買構造を紐解きながらターゲット顧客へコンタクトするマーケティングシナリオ設計が非常に難しくなかなか成果が上がらないことが現状です。
WEB検索ボリュームの少なさ
製造業で取り扱っている製品や部品、例えば「インキュベータ(培養器)」「アクチュエータ」「ボールねじ」「ヒンジ」など普通に生活を行う上では、なかなか聞いたことのないワードかと思います。
では、これらのワードがではどのぐらい検索されているかというと「インキュベータ:月間:9400件」「アクチュエータ:10,000件」「ボールねじ:3,100件」「ヒンジ:13,000件」※1
一方で、消費者が検索する例えば「サッカー:535,000件」「鬼滅の刃:2,600,000件」「沖縄:270,000件」などと比較すると圧倒的に検索ボリュームが少なく、さらに「ヒンジ 種類」「アクチュエータ 仕組」などの2語、さらに3語と掛け合わせるワードを増やして検索するとどんどんボリュームが少なくなり、集客の観点から考えるとマーケティング施策効果が薄れてしまい、通常の営業活動と比較した際に短期的に「効果が出ない」「効果が薄い」というレッテルを張られてしまうのです。
まとめ:製造業販促に悩んでいる方へ
最後に「業界構造や購買構造・検索ボリュームの少なさという構造的なハード面と日々の営業業務が忙しく、なかなか時間が取れないソフト面」が、製造業界にマーケティングが普及しにくい理由と考えております。
※1:SEO分析ツール:Ahrefs調べ
執筆者
製造業セールスマーケター 古澤 卓(ふるさわ すぐる)
大学卒業後、事業会社にて営業企画やマーケティング部門に従事。ものづくりの楽しさと業界発展に貢献したく製造業大手生産財コマース企業にて「メカニカル部品」を中心にマーケティング戦略策定から施策実行・分析業務に従事。現在は、製造業に特化したセールスマーケターとして、加工・部品・素材メーカーなどマーケティング戦略策定からデジタルマーケティング実行分析を支援しております。得意領域:事業・マーケティング戦略策定、SEO・メールマーケティング、インサイドセールス等のシナリオ設計、データビジュアライゼーション